2012年3月4日日曜日

0 倍したらすべて0

どんな数も 0 倍したらすべて 0 になるということから,0で割る計算が定義できない という説明がされる.

でも,本当にどんな数でも,0をかけたら 0 になるのか.
もちろん結論は,「0倍したらすべてすべて0」であるが,その議論.

「0 とは何か」と問うと,世間の人は「何もないこと」と答える人は多い.
これは,数が大きさや個数を表しているときはOKだが,0 は数直線の原点を表す数でもある.
世の中の事象に頼らない,数学の内部における 0 の定義は
「たしても変わらない数」
のことである.(専門用語で「和の単位元」という.)
そのような数を数式に書くときは,世間一般では 0 という文字を用いているが,「たしても変わらない数」を数式を使っていいかえると,すべての数 a に対して,
「a+0=a,0+a=a」
を満たす数のことを言う.

さて,このような性質を満たす数はひとつしかない.(定理)
(理由)
もし 0 以外に z というものがあって,これも「たしても変わらない数」であるとする.
つまりすべての数 a に対して,
「a+z=a,z+a=a」
を満たす.
すべての数 a はもちろん 0 もありうるから,0 を代入して,
「0+z=0,z+0=0」・・・(1)
を満たす.

また,すべての数 a に対して,
「a+0=a,0+a=a」
を満たしていたのだから,これも a に z を代入して
「z+0=z,0+z=z」・・・(2)

(1),(2)を見ると,
0+z や z+0 はどちらも,0 にも z にも等しい.
「0+z=0,0+z=z」,「z+0=0,z+0=z」
同じものに等しいものはまた等しいので,
「0=z」
したがって,なにか違う「たしても変わらない数」を用意しても,数の性質によって,0 と等しくなってしまうから,「たしても変わらない数0 はひとつしかない」といえる.

「0倍するとみんな0」(定理)
数式で言い換えると,すべての数a に対して「a×0 = 0」
(理由)
「a+0=a,0+a=a」
の a はすべての数なので,0 を代入してももちろん成り立つ.
「0+0=0」
これをつかって,「a×0」の 0 を書き換える.
a×0
=a×(0+0)
数の基本性質には掛け算と足し算を結びつける性質に分配法則がある.それで変形すると,
= a×0 + a×0
つまり
a×0 = a×0 + a×0
を満たす.
これを見て,「a×0 は足しても変わらない数だ!」と気付いた人は偉い.
気付かない人のために書き直す.a×0 = M とすると,
M = M + M
M に M を足しても,変わらないから,M は足しても変わらない数である.
足しても変わらない数はひとつしかなく(定理),それは 0 のことだから,
M = 0
よって,a×0 = 0
したがって,どんなの数も 0 倍したら 0である.(これが証明すべきことであった.which was to be demonstrated.quod erat demonstrandum.)

さて,ありえないことに対して,
「『ありうること』と定義して新たな数を作り出せばいいじゃん」
ということはある.実数ではありえない,虚数単位 i を作り出すように.

つまり,0倍しても 0 にならない新たな数が使える数の体系が作れないかということ.
そのような数を p とでもしよう.
「p×0 = q,ただし q≠0」
0=0+0 だったので,代入すると,
p×(0+0) = q
分配法則で,
p×0 + p×0 = q
2×p×0 = q
p×0 = q/2
あれれ,p×0 = q と定義したのに,その半分に等しくなってしまった.
これは矛盾.

もちろん,2万円をくろべえに貸して,翌日に1万円しか返さなくていいという社会ならば,文句はないだろうが(笑

古代において,負の数はありえない数であった.
しかしある時代から,それを数の体系に加えても,なんら矛盾がないばかりでなく,いろいろ「使える」ことがわかって,市民権を得た.
虚数も,数学の教科書では,
「2乗して -1 になる新たな数を考え, i とする」
なんて,とってつけたような書き方だが,それが現代の科学技術を発展させ,現代の便利な生活を支えている.>虚数の存在
さらに,
「計算は普通の文字のように計算して, i^2が出てきたら -1 に置き換える」
ととってつけたような計算規則を用意して胡散臭さ全開!
こういうのを見ると,「必要ならなんでも用意すればいいのかな」という気持ちになって,「0倍して0にならない数」とか「0で割る計算を定義」とかいうことを言い出すわけだ.
ところが,そういうものはすべてうまくいかず,数の性質から矛盾し,いままでうまく使っていた,数の体系ではなくなってしまう.それこそ,
「2万円をくろべえに貸して,翌日に1万円しか返さなくていい」
とか
「1万円と1万円を貸すから,明日はそれと等価な5万円をくろべえに返却」
ということになって,だれもそのような体系を数の体系とは思わない.

そうしてみると,数の体系の虚数への拡張は,めずらしくうまくいったケースである.
数学は自由なので,新たなことを考えるのは重要なことだが,それが今まで使っていたものと矛盾しないようなものでなければ,無意味なものである.

さて,教科書ではとってつけたような虚数に関する記述だが,実はこの記述は「多項式環の剰余類で生成されるイデアル」を高校生にわかりやすく書き換えたという「深い背景」があるのだ.>虚数の導入とイデアル

2 件のコメント:

  1. スパムコメント2012年3月5日 12:46

    とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。

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    1. リンクをはがして,投稿者名を変更させていただきました.
      コメント本文だけ,ありがたいのでいただきます.
      これからもどしどし書き込んでください.

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